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冷凍されたオシドリとチューリップ人の王国

趣味で書いている小説用のブログです。

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虹よ、契約の虹よ〈18〉

七章 聖所で会おう、神殿の中で(3/3)



 3.

 黄昏、星が墜ちる。
 アキヤはそれを人と見ていた。
 甘い香りの立ちこめる人気のパン屋で、カウンター席の大きな窓の向こうがすぐ海になっている点が、現実にそこを訪れたときと違っていた。海はその面(おもて)を這う光のせいで白く燃えているようだ。星が墜ちてなお輝きを放つのでこうなっているのだ。光は光は海面から伸びあがり、陸地を覗き込んで、何かを探している。
「逃げたほうがいいかも」
 同席の女が言う。
「私が私であるために」
 同い年の女だ。二十歳。
「あなたがあなたであるために」
 女のトレイには、アボカドとチキンのマフィンサンド。角切りチーズのサラダ。飲み物はホットのダージリンティー。レモン果汁のパックが開いている。そうだ。この日は六月で、嶺北の朝は少し肌寒かった。案外細かいことまでよく覚えているものだと思う。女はスニーカーにジーンズ、白い丸首のTシャツと、薄紫のサマーカーディガン。肩の下まである後ろ髪は一つ結びにし、前髪は真ん中分け。化粧はない。地味で、少し暗いが笑顔はある。
 灰田瑞樹。
 憑依者。
「お前は逃げなくていい」アキヤは低い声で言い放つ。「憑依者の中で一番最初に殺したからな。オレが。楽になれよ」
「どうでしょう」
 灰田が薄く微笑んでいるのが気に食わなくて、アキヤは睨みつけた。
 灰田瑞樹は大学生だった。花澤大学宗教学部三年。一人暮らし。軽沢市出身。保護対策室の人間は、自我が弱く流されやすい性格の灰田を軽沢に残して起きたがった。監視が楽だからだ。だが人格障害を持つ彼女の母親のもとに置いておくことの悪影響と秤にかけ、嶺北管区芦原(あわら)市への単身での転居を許した。
 六人いる他の憑依者たちを殺し、呪詛を奪い取る。最初の標的に灰田瑞樹を選んだ理由は単純だ。彼女は誰にも保護されていない。大野のように家族との絆があるわけでもなく、宮部のように社会との絆があるわけでもない。皆無神クロエは偽体者ということで特別な監視がある。クロエと同じ町に住む晶は全寮制の高校に通い、自由が少ない分隙も少ない。学校に守られているようなものだ。九州で暴走している相澤序峰は論外。
 そういうわけで、何の力もなく誰からも守られていない灰田瑞樹を選んだ。弱い者から殺していくほうが効率がいい。
 日野明奈すなわちアキヤに性別はない。男としても、女としても、自由に振る舞える。石原かなめの手引きでミツバ霊研から脱走したその日の夜に、アキヤとして灰田と接触した。孤独で男性経験のない灰田の心を掴むのは単純な仕事だった。好意を寄せる『男性』に、自分は特別な存在だと思われたいという欲望を刺激することも。
 灰田の結晶霊体の性質はわかっていた。死者の魂を探し、死後の世界を探求するものだという。幸運なことに、攻撃的な性質のものではなかったのだ。
 死んだ家族の魂を探してほしい。それが今、安らかであるかどうかを知りたい。
 その嘘で、灰田をその気にさせた。
 人目のない場所に呼び出して、灰田が呪詛を結晶化したその瞬間、殺した。結晶霊体と呪詛の残りかすは、白夜白蓮がきれいに回収した。それで済んだはずだ。
「で? 何でいつまでも未練がましくダラダラ残ってるんだ? そんなにこの世が楽しかったか? それとも恨み言を言いたい?」
「恨み言を言われたってあなたは疚(やま)しくなんか思わない。このことに関しては、呪詛の力で心をコントロールしているんだもの。あなたに罪悪感はない。少なくともあのときはそうだった。違う?」
 じっと微笑を見つめ返す。灰田は続けた。
「あなたには、罪悪感よりも悪いものがある。悪いものが」
 灰田にあわせて視線を窓に向けた。
「憎しみ」
 窓の向こうに海はなかった。
 アパートの外廊下があった。
 地下市の、明らかに貧しい世帯向けの、古いアパートだ
 一階の外廊下から、奥の一室に入っていく。
 ああ。子供の頃には広く見えた我が家。それはなんと狭かったのだろう。
 和室に敷かれた布団の上で、女が座っている。
 そばに立つのは子供の明奈。幼い妹の晶。
 それに、スーツを着た男とその妻。
 あいつのことは覚えている。陰険な男だった。
 神の名を語り人を支配する者。教会の権威を背負って人の金を奪っていく男。
 その教会の名は、〈復元された真理の教会〉。
『ですから、断食献金ですよ』
 スーツの男が母に言う。母は肩に布団をかけて座り込んだまま、「うー」とも「んー」ともつかぬ生返事をしている。
 そうだ。第一日曜日は断食の日、と、教会の掟で決まっていた。断食によって浮いた食費は、教会に納めなければならない。
 男の妻が親切ぶって声をかける。
『日野さん。前を見て、お話しましょ』
 明奈と晶の母親は、どろりとした目でどこでもない場所を見ている……。
「畜生!」
 アキヤはカウンターを叩いた。シナモンロールを乗せた皿の上でパン屑が動き、ぶどうジュースの氷が崩れる。
「あいつら! あの野郎ども!」
 灰田はにこにこ笑っている。
 すべきでないとわかっていても、叫ぶのを止められなかった。
「あいつらのせいだ! あいつらさえ来なければ! そしたらこんなことにはならなかった!」
 災厄が起きた軽沢地下市の商店街の広場。
 あの夕暮れ、明奈だったアキヤがそこにいたのは復元教会のせいだった。その支部会長が、ささやかな暮らしを送る一家から、生活費を巻き上げにきた。
 たまらなくなり家から逃げ出した。そして広場に逃げ込んだ。
 それを追って晶が来た。
「なんで見せた? なんで見せた?」
 まだ微笑んでいる灰田を目にし、アキヤは理解した。
 これは灰田ではない。
 あの女はこんなに冷静ではなかった。人が声を荒らげたりすれば、つられて取り乱しそうな女だった。
「お前、誰だ」
「灰田瑞樹」
「違う」
「何故?」
 アキヤは質問を重ねる。
「誰だ」
 次は答えを得られた。
「美黄泉(みよみ)」
 美黄泉。その名をアキヤは吟味する。
「灰田の結晶霊体だな」
「ええ」
「灰田はどうした」
「死んだ」
 淡々と答えている。
 微笑んだままなのは、他の表情を知らないかもしれない。何が起きようと、微笑み続けるかもしれない。他の表情、他の感情を、教えてもらわない限り。
 四時の時報が鳴る。
 どこかで鳴っている……。

『四時です。市民のみなさん、夕の祈りの時刻です。今日という一日に感謝して、神政国の平和を願い、天照大神(あまてらすのおおみかみ)、国と地域を守る全ての神々と、我が国最高の祭司であられる西王、東王両陛下に祈りを捧げましょう』

 車内放送だった。規則正しい走行音が耳に聞こえてきた。窓にかかるブラインドが日差しに染まっている。
 向かいの座席で、かなめが窓枠に肘をつき、手に頭を預けて目を閉じていた。だが寝てはいなかった。アキヤが居ずまいを正すと、すぐに目を開けた。
「ちょうどよかった」かなめは相変わらずにこりともしない。「次の駅で降りる」
「おばさん、オレすげぇ夢見た」
「アキヤ。今君は明奈だ」
 それで、思い出した。ブラウスを着た胸がふっくらと膨らんでいる。髪はワックスとピンで整えており、化粧も落としていない。
 女の声で言い直した。
「お姉ちゃん、私すごい夢見た」
「どんな?」
 声を落とす。
「灰田……あの根暗女。自分の結晶霊体に人格を与えようとしてたよ」
 かなめは驚きもしない。
「何故だろうな」
「知らない。友達が欲しかったんじゃない? なんせ根暗だし」
 他の客には決して聞こえないひそひそ声で言うと、もうその話をやめた。
 二人は黒姫市の中心地の駅で、連れだって降りた。四方を山に囲まれた地方都市で、軽沢及び砌沢市にも近い。
「いるか?」
 改札の向こうには、黒姫市街が横たわっていた。ここは地下市と地上市に分かれた階層都市ではない。視界を遮る高い建物はなかった。
 駅からは、まっすぐ下り坂が伸びている。眼下に広がるあらゆる家のあらゆる窓が、傾きかけた日の光を反射している。眩しかった。
 道路から改札までを結ぶ階段とスロープの下を、二人連れの外国人の女が並んで歩いていた。おしゃべりしており、和やかだ。
 明奈の心臓が小さくなる。
 なんと悪意ある偶然だろう?
 胸に名札をつけたその二人は、復元された真理の協会、通称『復元教会』の宣教師たちだった。信徒の若者は、教会員獲得のためにある程度の年齢になると本国から派遣されてくる。彼女たちもそうだ。
 明奈はしゃがんで植え込みの石を拾った。
 その石は、二人連れのうちの一人の額に投げつけられ、ぶつかった。女の高い悲鳴があがる。
 明奈は通路の手すりから離れ、かなめと並んで歩いた。
 かなめは一部始終を見ていたが、何も言わなかった。

 いつか、空の星の三分の一が掃き集められ、地に投げ落とされる日が来るという。
 黄昏、星が墜ちる。
 空に描かれた直線、長い炎の尾が、その日、暮れなずむ頃に観測された。それは太平洋沖に降り注いだ。
 宇宙空間で爆破された無人深宇宙探査機〈カグラC1〉が、地上に投げ返されてきたのだ。

 ※

『日本再生党の西尾です』
 東国公共放送局の番組、『きょうの国会ダイジェスト』である。午後七時半から始まる、その日の国会の様子を三十分にまとめた人気の番組だ。
『豊後管区、及び肥後管区などでの一連の動乱で亡くなられた方のご冥福をお祈りし、ご遺族には心からお悔やみ申し上げます。そして今なお、雨露を凌ぐ屋根もない厳しい環境で過ごされている皆様にお見舞いを申し上げます』
 浅葱色のスーツを着た女性議員に向かう視聴者の無邪気な目が、ゆっくりと瞬いた。
『私は七月四日に柚富市を訪問し、たくさんのご要望を聞いてまいりましたが、総理にはこの場で一点申し上げたいと思います。魔害被災者生活支援法の対象要件と、金額を拡大していただきたいという要望です。
 現行の法律ですと、家屋が一部損壊、取り壊しまでは必要ない状態であると認定されれば、この支援金の対象から外れてしまいます。また取り壊しが必要となり、支援金の対象となっても上限は三百万です。この額ではとても生活の再建などできません』
 時折、そうだ、という男の声が上がる。
『住宅を取り壊さずに補修できるとなればお金はもらえない。住宅を取り壊すとなっても三百万では足りない。これは被災者の方にとって大変理不尽に思われる状況です。この現状を打開していただきたくご提案を申し上げています。
 私たちは八日、日生党野党三党で、魔害被災者生活支援法改正案をすでに提出しました。検討事項として、支援金の額を上げる、取り壊しの条件を付けずに一部損壊家屋も支援の対象にする、ということです。
 これは実は六月三十日付で私から今井政調会長宛に申し入れた補正予算に対する提言書にも入れていたことです。今回の補正予算で、被災された国民のみなさんの生活再建に最も効果のある私たちの提案を受け止めていただいていないことが大変残念ですが、何故議題に入っていないのでしょうか。総理、お答えください』
『小寺内閣総理大臣』
 くたびれた顔の総理が登場する。
『魔害被災者生活支援制度はですね、魔害によって著しい被害を受けた方に対し、全管区及び国によって最大三百万円の支援金を支給するものでございます。制度の趣旨からすればですね、支援金の増額や支給対象の拡大については過去の様々な地域でお互いに助け合っているわけですが、他の地域においても様々な災害が現在発生しておりまして』
 テレビを食い入るように見つめる目はもう瞬きすらしない。話についていくのに必死なのだ。
『そうした件も含めてですね、過去の災害の被災者との公平性、他の制度とのバランス、国や管区の財政負担などを勘案して検討すべきものであると考えております』
 テレビの前の目の主は考える。つまり、九州の人たちに払うお金を増やしたら、これまでもらっていた他の人に不公平だからあげられないよってこと?
 ここで編集が入った。
『では、次の議題に移ります』
 えっ?
 これで終わり?
 黄色いマカロンのクッションを抱きしめてソファに座っていた少女は、テレビに向かって大きな目をいっそうしばたたいた。
 少女の名は横井在処(ありか)。私立常誠小学校六年。十一歳。住まいは黒姫市中心部にほど近い住宅地にある。年収七~八百万程度の世帯を客層にした戸建ての住宅に、六歳から住んでいる。前の住宅のことはよく覚えていないし、今の住宅に不満を感じたことはない。不満があるとしたら、父親にひどく怒鳴られたとき、その声が外に筒抜けになることくらいだ。
 リビングと続きになったカウンターキッチンで餃子を焼いている彼女の母は、しかしすべてが不満だった。
 横井治子は東都か横濱に住みたかった。少しの点差で夫が同僚に負かされて、その垢抜けた、素敵な都市への転属は果たされなかった。何故点差を付けられたか。原因の一つは娘のありかだ。ありかが問題児で、他の児童と協調して学校生活を送ることができず、成績も悪い。その問題のせいで夫・正志の仕事に対する集中力が削がれたのだ。
 つまり娘が悪い。
 テレビに見入っている後ろ姿を見ているだけでも、苛立ちを通り過ぎて嫌悪と敵意と、それらに対するが罪悪感と焦燥感が湧いてくる。
 もう東都か横濱に住みたいなどとは言わない。もう少し広い家に住みたい。最新のキッチンで、カビや汚れのつきにくい水周りが……いやいや、せめてもう少し大きな電子レンジや、消費電気量の少ない大型冷蔵庫が欲しい……。
 と、画面が切り替わった。
『番組の途中ですが速報をお伝えします。先ほど午後六時五十九分頃、太平洋沖に何らかの物体が落下したとのニュースが入りました。現在、海上保安庁及び陸奥(むつ)管区の漁業組合が状況の確認を急いでおり、周囲に警戒を呼びかけております。また落下物が確認された以降、付近を航行していた漁船・第一愛徳丸との連絡が取れなくなっており、捜索が行われています』
「ありか」
 呼びかけるものの返事がない。聞こえないふりをしているのか。そうでないならその集中力を勉強に使ってくれればいいのに……。
「ありか!!」
 つい怒鳴った。怒鳴った後で後悔した。あわてて振り向いた娘は、怯えた顔をしている。朝学校に行くために結ったままのツインテールの髪の揺れさえ、怯えを伝えているようだ。
 怒鳴ったり怒るのをやめたいと、いつも思っている。大体、私はありかが嫌いなのだろうか? そんなはずはない。実の娘なのに。
 実際、ありかにだっていいところはある、それを一番よくわかっているのは母親である治子なのだ。優しいし、素直だし、目の前に気を引くものさえなければ家の手伝いもよくやる。ただ、勉強や学校生活におよそ役立たない異様な集中力が不気味で、またその間彼女が何を考えているのかわからないのが不気味で、そう感じざるを得ないのだ。
 今度は一転、低く呟いた。
「テレビ見てないで手伝いなさい」
 夫は食卓につき、経済雑誌を広げている。長男の正太郎は携帯ゲーム機に夢中だった。
 びくびくした様子でキッチンに来たありかに、茶碗に米を盛るよう言いつける。苛立ちながらも不憫に思っていた。これではありかに対して不公平だ。
「正太郎」次の苛立ちの矛先は、ちょうど目の前にいた。「あんたも手伝いなさい」
「ええ? おれテストで全部九十五点以上だったからゲームやっていいって言ったじゃん」
 馬鹿なことを言ってしまったと思う。治子は口をつぐむ。仏頂面で餃子を家族四人それぞれの皿に盛りつけていると、正太郎もまたふてくされた態度で手伝いに来た。正志が雑誌のページをめくる音が空しかった。
 食事が始まった。
 食器の触れ合う音と、テレビの音だけ響いている。会話はない。治子には、餃子の味がよくわからない。このところものをよく味わった覚えがない。誰も何も言わないのは、おいしいからだろうか? まずいからだろうか? これからはもういっそ、冷凍食品にしてしまおうかと思う。案外誰も気がつかないだろう。
「ありか」
 正志の声にありかが顔を上げる。表情はこわばり、緊張に満ちていた。
「今日はみんなと学校に行ったのか」
 憐れっぽい目線が治子に縋りついてきた。治子は首を横に振り、きっぱり拒否する。自分で言いなさい、と。
 答えが遅い。
 ついぞ正志が箸を止め、嫌悪と拒絶の眼差しをありかに浴びせた。ありかの目線はテーブルに逃げた。ひまわりの模様のテーブルクロスだ。ありかの好きな花だった。
 正志は細面で、いかにもやり手の、女好きのする顔だった。だが上っ面がいいだけだった。そのことに気付けなかったのが、子供たちに対する自分の罪だと治子は思う。この冷たい男を子供たちの父親にしてしまったこと……その血を引かせたこと……つまりそれは、この子を産んでしまったこと、ということにも繋がるのだが、治子はそこまで気付いていなかった。
 一方ありかは、白い磁器のうさぎの箸置きとテーブルクロスのひまわりを見つめながら、冷や汗を垂らしていた。
 突発的な魔害に対応するため、ありかの小学校では地域ごとに集まっての登校する制度となっていた。ありかの登校班は、家が遠くバスで来る子のために、バス停の前が集合場所になっている。だがありかは集団登校が苦手だった。みんなと一緒に行かなきゃ。行かなきゃ。そう思うほど、ベッドから起きられない。着替えようにも服を用意できない。ランドセルに時間割通りの教科書を入れられない。前の日の夜に用意しなさいといつも言われているのに。このまま中学校に上がっても、時間通りに登校できる気がしない。
 それでも、小学校に通えているのはお父さんとお母さんのお陰だ、という。もし『お前のような出来の悪い奴』を『意識の低い貧乏人の親がするように』公立の小学校に通わせたりしたら、『分別のない貧乏人の子供』たちによって徹底的にいじめられ、お前のような奴は『人生から転落』してしまい、『ろくな大人になれない』のだそうだ。親が言うのだからそうなのだろう。
「ううん」箸を持ったまま答えた。「一人で行った」
 張りつめた緊張の後、父の盛大なため息がありかの心を抉った。テレビの声が流れている。ありかは耐える。この時間がずっと続くわけじゃない。じきに終わる。自分に言い聞かす。じきに終わる……。
「お前」父がテーブルの向こうから身を乗り出してくる気配。「沢田先生に、このままじゃ中学校に上がれないって言われたこと忘れてないだろうな」
「うん……」
「一般の子と同じように中学受験させるって言われてるだろう」
「うん……」
「お前、わかってんのか?」
「うん」
「学年でこんなこと言われてるのはお前だけだぞ」
 ありかはお腹が空いていた。今餃子を口に運んだら怒られるだろうか。その焦げ目を見つめる。おいしそうだなあ。
「うん……」
 バン!
 テーブルが叩かれた。ありかは箸を片方取り落とし、体を硬直させて上目遣いに父親を見上げた。目があったのは一瞬だったが、十分だった。恐くて見ていられなかったのだ。箸を拾う。ただ言い直した。
「はい」
 体の芯が冷たくなり、震えが来た。食欲などどこかに行ってしまった。父の視線がそれるのを感じた。流れたままの『きょうの国会ダイジェスト』が、東アジアがどうのこうの……と行っているのだが、聞いていられない。どうしよう。中学受験を受けることになったら時事問題の勉強もしなきゃいけないのに。
「ありか」
「はい」
「来月のアジア対魔パートナー協定会議に出席する十一カ国の代表者を言ってみろ」
 体の冷たさの反対に、顔と頭がぼうっと熱くなる。心臓がぎゅっと握られる感じがし、目の前が見えなくなってきた。言えるだろうか。心臓が早鐘を打つ。多分言える。この前の日曜日にお父さんと一緒に覚えたばっかだもん。よく落ち着いて思い出せば言える。
「日本のいの……」
 違う。井上総理は死んだ。
「……日本の小寺総理」
 ありかは顔を伏せたままだが、視線は痛いほど感じる。そんなことは言えて当たり前だとばかりに父親は待っている。
「韓国のキム大統領」
「それから?」
「中国のワン人民代表」
 正太郎がにやにや笑いを浮かべながら、ありかの餃子の皿をじっと見ていた。
 ああ。心臓が痛い。
「モンゴルのアマル国王……」
 さっ、と正太郎の箸が動いた。間違いに気付いたときにはもう、餃子が一つ兄の箸に取られていた。
 ありかはほとんど叫ぶように訂正した。
「モンゴルのアマル王子!」
 餃子は取られたが、父の叱責は免れたようだ。だが、目線をあげてもその顔にありかを褒めるような色はない。
 何人言ったっけ。えっと、四人? まだ四人……。
「マレーシアの……」誰だっけ。「えっと、マレーシアのリー大統領……」
 正太郎の箸がまた、ありかの餃子を取った。間違いだったようだ。そうだっけ……間違いだっけ……わからない。
「えっと、マレーシアは後……後にします……えーっと」
 折りよく一つ思い浮かんだ。
「タイのチナワット王子」
 どうしよう。
 あとは自信がない。
 でもこれでやっと五人言っただけだ。
「えっと、えっと……シンガポールのディン大統領……?」
 また餃子を取られた。正太郎は追いつめるように、わざとありかの目に付くように、小皿の醤油に餃子を浸している。
 思い出した。
「違う。ディン大統領はマレーシアだ」
 あと四人。
 じゃあシンガポールの大統領は誰だっけ。
 焦れば焦るほどわからない。
 落ち着こう。落ち着いて。そうだ。じゃあまずは国の名前から思い出そう。えーっと、残りはインドと、ベトナムと、タイ……ううん、タイはもう言ったから……何だっけ……あ! そうだ。フィリピンだ。残り四つで、国がインドとベトナムとフィリピンと中国……いや、中国はもう言った。
「次は?」
 父が無情に催促する。
 韓国も言ったし、モンゴルも言ったし……。
「あーあ。あとは簡単なのになー」
 正太郎が箸を鳴らすのを、治子が咎める。
「正太郎。やめなさい」
「ありか」
 父の声が冷静なのが不気味だった。
「三秒以内に言いなさい」
 どうしよう。国の名前さえ思い出せないのに。
「三」
 どうしよう。取りあえず人の名前を思い出そう。
「二」
 どうしよう……。
「一」
 ありかの皿の餃子は残り一つだった。まだ一つしか食べていないのに。
 一秒の半分、更に半分。そのほんの僅かな時間に、ありかの胸に強烈な意地が湧いた。それはなけなしのプライド、普段なら決して表に出すことの許されない反抗、存在することすら認められない反意だった。
 ありかはものすごい勢いで、箸で最後の一個の餃子をひったくると、それを醤油もつけずに口に放り込んだ。
 ああ、やっちゃった、と思う。
 だが、不思議とどこか満足していた。
 父が、身を屈め、テーブルの横のマガジンラックから経済雑誌を取り出す。それを緩慢な動作で丸めた。怯えさせるために緩慢なのだ。
 そして立ち上がると、ありかの頬を丸めた雑誌で全力で叩いた。
 痛かった。
 痛いは痛いのだが、思ったほど後悔はなかった。今お父さんは死ぬほど怒ってる。何故か小気味よくもあった。六年生に上がってから、自分はどこか変わったように思う。
「お前、中学校に行かずに一年生からやり直したらどうだ?」
 椅子に座り直し、父親が言う。
「え?」
 ありかは返事をしない。
「どうだ」
 黙り続けた。
 父親は今度は丸めたままの雑誌でテーブルを叩いた。
「どうだって聞いてるんだ!」
 ありかはもうびくびくしなかった。どうでもよくなったのだ。いつまでも黙り続けていられないのは、もうありかではなく父親のほうだった。
「お前、出ていけ」
 さすがに母が止めに入る。
「お父さん。ありかまだほとんど食べてないでしょ?」
「働かざる者食うべからずだ。いいか、お前、おい。お父さんは仕事に行ってる。お母さんは家事をしてる。子供の仕事は勉強することだ。お父さんいつも言ってるよな」
 ありかはわざと、箸置きを使わずに、醤油がついた箸をテーブルクロスの上に置いた。椅子を引き、立ち上がる。
「おい。『ごちそうさまでした』は」
 テーブルに背を向ける。
「おい!」
「お父さん……」
「うるさい! お前が甘やかすからああいうふうになったんだろうが! おいありか!」
 リビングのドアのノブに手をかける。冷たい。
「お前は小学一年の道徳からやり直せ! 明日の朝までにゼミの小一の道徳のテストを一学期分! いいか!」
 ドアを開けた。廊下は真っ暗だった。
「明日の朝ご飯までに印刷したやつを提出しないと、お父さん、またぶつからな!」
 ありかは二階に上がり、自分の部屋に入っていった。部屋に鍵はない。お父さんがいつでも好きなときに開けて、ちゃんと勉強しているか、部屋を片付けているかをチェックするためだ。
 部屋は散らかり放題だ。
 机には毎月郵送されているゼミの参考書と問題集が山積みだが、どれも新品ものままだった。未開封のままだと怒られるので封を切るまではするのだが、その封筒もゴミ箱ではなく机に乗っている。勉強できる状態の机ではない。床には服が脱ぎっぱなし。ランドセルが開け放たれ、教科書や筆箱が散乱している。ありかは電気をつけ、ベッドに座り込むと、白色光を放つ明かりの真下に散る教科書を見るともなしに見つめた。
 現代社会の教科書が、ちょうど目線の先にあった。社会。今、ありかが生きている場所。その生活の基盤。ありかにはよくわからない。大人たちの世界、遠い世界だ。だけど、何か大きな問題が起きれば、大人も子供も泣く。
 住む家がなくなって泣いているのは、その人の自己責任らしい。父親はそう言う。いつどんな災害が起きるかわからないんだから、貯金をすること。賢く資産を運用し、たくさんお金を稼ぐこと。そのために、いい会社に入ること。将来いい会社に入るために、いい大学に入ること。いい大学に入るためにいい高校、いい中学に入り、そのために勉強すること。一にも二にもいい成績であること。それが『人生に勝利』するための、『唯一確実な生きかた』だそうだ。
 だけど、そうだろうか。
 テレビのニュースで流れてくる、廃墟になった町。呆然とした人や、泣いている人。その映像を見ていると、父親の言うことが正しいことだとは思えない。人の痛々しい涙を見ていると、ありかの目にも涙が溢れてくる。それも、兄によれば、『頭が弱い奴は涙腺も弱い』かららしいのだが。
 お金がない奴が悪い。
 それは若い頃に努力をしなかった人生の敗者だから、自業自得だ。
 父の言うことを信じようとするほど、心は暗く寒くなる。
 ありかはのろのろ立ち上がり、コンセントを挿して机に置いたままのノート型学習管理端末を取りにいった。東国ネットに接続できる、大幅な機能制限の付いたパソコンのようなものだ。
 国内のネットワークは、無料で完全実名制の東国ネットワーク、ないし西国ネットワークに分けられている。東国と西国の間で通信を行う有料の無境界ネットワークを利用するには警察署への申請が必要で、更に全世界に広がるワールドワイドウェブを利用するには、法人ないし個人で自治体の許可を取らなければならない。
 通信制学習塾『みらいゼミ』から送られた端末をカーペットの上に置き、床に寝そべった。小学一年から六年までの過去の学習内容とテストが管理されている。鉛筆に顔をつけたゼミのマスコット『えんぴつせんせい』がしゃべり、音声が流れた。
『きみの通信簿が更新されたよ!』
 ありかは白けた表情で、機械的に画面の片隅の『きみの通信簿』をクリックした。過去の学習内容から、自分がどういう人間かわかるというものだ。
『横井在処ちゃん。
 君は勉強に対する意欲を失っているようだね。五年生の三学期の成績表のことを気にしているのかな? 算数の成績は残念だったけど、今は中学受験を控えた大切な時期だから、気持ちを切り替えていきたいね。
 先生は君に自信を持ってもらいたいし、実際君にはいいところがたくさんあるんだよ。たとえば国語の成績……』
 ありかは見るのをやめた。表情筋を使わぬまま黙々と操作を続け、小学一年生のテキスト集をクリックする。道徳科は受験の重要度が極めて低いので、リンク集の一番下にあった。

『こじき』
『しゅうきょう』
『どうとく』

 三つとも、五年生から教養科目に統合されるものだ。
 タッチパネル上で指を這わせ、『どうとく』まで持っていく。
 と、空虚な心に再びむらむらと反抗心が湧き出でた。一つ上の『しゅうきょう』にカーソルを合わせ、クリックする。
 三つの項目が現れた。

『どうして しゅうきょうは あるのかな?』
『どの しゅうきょうが ただしいのかな?』
『せかいの しゅうきょうを みてみよう!』

 何となく、一番下を選択する。再びページが分岐する。『ぶっきょう』『どうきょう』『じゅきょう』『ひんどぅーきょう』『ゆだやきょう』『きりすときょう』『いすらむきょう』……。
 適当に指を動かすと、『きりすときょう』にカーソルがあったのでクリックする。

『きりすときょうは、 あいの しゅうきょうだと いわれています。はじめに、まがいで おうちをなくした おんなのこを みなさんに しょうかいします。
 このおんなのこは、 おとうさんと おかあさんが しんでしまい、 ひとりぼっちになってしまいました。
 ひとりぼっちで とてもつらい まいにちでしたが、 あるひ、 きょうかいで いえすさまと であいました。
 いえすさまは、 すべてのにんげんを あいしているかたです。だれにたいしても やさしくて、 どんなひとも、 わけへだてしません……』

「あーっはっはっはっはっはっはっは!」
 ありかは無理やり笑った。
「そんな人、いるわけないよ!」
 すべての人間を愛し、誰に対しても優しくて、どんな人も分け隔てしません! 
 そんな人がいるって本気で信じているのなら、大人って案外馬鹿なのかなあ。
 いつまでも笑い続けていられずに、黙る時が来た。
 笑う前よりはるかに深い虚無感が来た。
 胸が締め付けられる感じがした。先ほど食卓で感じたのと同じ痛みだった。今度は、恐いのではない。
 悲しかった。
 目頭が熱くなり、涙がぽた、ぽた、と、黄緑色のカーペットに落ちた。何故悲しいのかわからない。でも、確かに悲しい。涙が次々落ちてくる。兄が言う通り、頭が悪いからすぐに泣くのだろう。
 ページをすべて閉じた。
 いくつか並ぶアイコンの一番最後には、『みらいのわたし』と題されたファイルがあった。政府が推進するAI普及プログラムの一環で、学習利用のためにゼミの塾生に破格の値段で販売されたものだ。これを端末にインストールした父親の説明によれば、学校成績、話しかける言葉の内容、検索する言葉の傾向や興味関心、嗜好から、子供たちが将来どのような人物になるかを類推するものだという。会話もできる。起動画面は黒一色だ。ありかがこの背景を選んだ。
 その黒さの向こうにいる未来の自分に、ありかは声を投げつけた。
「お父さんなんか嫌い! 大っ嫌い! あいつ死んじゃえばいいのに!」
 一階からは、大声で喧嘩する声が聞こえてくる。
 ありかは自己嫌悪を抱えて返事を待った。
 返事は得られた。黒さの向こうから、白い楷書体の応答が浮かんできた。

〈氷は憎んでも氷〉

 やっと、心の安らぎを得られた。未来の自分の言うことは、よくわからない。それでも心安らぐのだ。ささやかな満足を得て、端末の電源を切った。それをカーペットに置いたまま、ベッドに向かい、横になる。布団をかぶり、耳まで引き上げた。父の怒鳴る声は、それでも聞こえてきた。布団を頭のてっぺんまで上げ、胎児のように丸くなる。
 お父さんは、私たちのために仕事に行って、私たちのためにあんなにいらいらするんだなあ。
 大人になるって、いらいらすることなんだろうか。大人になったら毎日不機嫌なのが当たり前なんだろうか。ああ、じゃあ大人になるくらいなら死んだ方がましだなあ。
 そのうち眠気がきて、ありかは歯も磨かずに寝てしまった。

 ※

『黒姫市のみなさん、おはようございます。今日は鞍嗣八年七月十四日、木曜日、時刻は午前七時です。神政国の平和を願い、天照大神、国と地域を守る全ての神々と、我が国最高の祭司であられる東王、西王両陛下に、感謝と祈りを捧げましょう……』
 横井正志は朝から眉間にしわを刻んでいた。今日は朝から打ち合わせが四件。一番気が重いのは、納期が厳しいとほざく現場の責任者に、納期を守る約束をさせること。納期が厳しいのは誰でも一緒だ。甘ったれてはいけない。正志が考えた納期で契約が取れなければ、利益が大幅に減少する。考査のことを考えれば、それだけは避けたい。現場は残業続きで小さな事故がちょくちょく起きているらしいが、幸いにも大事には至っていない。よくよく現場責任者に言っておけば、今のスケジュールでいけるはずだ。
 妻の治子がネクタイを結び、背広を広げる。正志はそれに腕を通す。治子の顔に笑みはない。挨拶すらしない。こんなだから、子供たちが親に向かって「おはよう」すら言わなくなるのだ。ふてくされたような顔で出勤の準備をしている治子を見ていると腹が立ってくる。
 玄関まで行って、無言で差し出される鞄を受け取る。
「あなた、今日の晩ご飯は家で食べるの?」
 それが「いってらっしゃい」の代わりだった。正志は最低限の返事をする。
「ああ」
「そう」
 靴を履き、家を出た。消えぬ苛立ちが怒りに変わったのは、門を出て二歩も歩かぬうちだった。何が「そう」だ! 俺なんか帰ってこないほうがいいのか。なんだあの態度。あの家、俺が金を出して買った、俺の名義の家に住めるのが当たり前のことだと思ってるのか。あれは俺の家だ。その気になればいつでもお前なんか追い出せる。いや、それどころかお前の晩飯の金を与えないこともできるんだぞ。それなのに、どうして誰も俺を尊敬しないんだ!
 夫を見送った後、治子はテーブルに並んだ汚れた食器を無表情に重ねていく。夫は今日も朝から不機嫌だ。昔はこうじゃなかったと思う。いつからか、朝「おはよう」と声をかけても、「ああ」としか言わなくなった。そのうち返事もしなくなった。朝ご飯に「おいしい」と言ってもらえたことがここ数年あるだろうか。言うとしたら、「おい、塩辛いぞ」とか、「おい、子供には脂質が多すぎるんじゃないか」とか、「今日のおかずは甘いものばっかだな」とか、「野菜は彩りを考えて盛りつけろ」とか、そんなことばかりだ。
 愛を引き留めるすべての努力が空しさを残し消えた。夫の中に治子はいない。彼は自分の世界に邪魔者を置いてはおけない人なのだ。治子はもはや邪魔者だ。家事と子供の世話をするから利用価値があると思われているだけだ。もう、夫を喜ばすことはできないだろう。どんなに心を砕いても、せめて苛立たせないようにするだけだ。夫だけじゃない。長男は反抗期が始まりつつあって、母親であるこの自分に向かってまで最近馬鹿にしたような口を利く。ありかは自分の世界に引きこもり、誰のことをも避けている。
 私のことに気付いてほしい。私が毎日していることに。あなたたちのためにしていることに。それなのに、どうして誰も私に感謝しないのよ!
「行ってきまぁす」
 リビングに声をかけ、鞄を肩に担ぎ直す正太郎の頭は夏期講習のことでいっぱいだ。受験生にとって夏休みほど大切な時期はない。高校へは今の成績のままエスカレーター式に上がれないこともないのだが、担任からはもう一ランク上の学校を目指してみたらどうかと言われていた。そして、父が自分に望んでいる進学先は、先生が提示した高校より更にもう一ランク上のところだった。軽沢地上市の高校で、磁車で片道一時間半。遠いが通う価値はある。日本一の学力を誇る東都大学への合格率が、管区内で一番高いからだ。
『それにな、通学時間が長いっていうのは悪いことばかりじゃないんだぞ』まだ行くとも決まっていない高校のことで父は言う。『一時間半、人より多く勉強する時間ができるんだ。誰も見てないからってボケッと過ごしたり寝たりするんじゃないぞ。いいか。時間の使いかたこそ、人と差をつける決め手なんだ』
 父に何を言われても、母に何を言われても、この頃腹が立つばかりだ。反抗期というものだろう。そういう時期があることはもちろん学校で習って知っている。だが反抗期と受験に何の関係があるだろう。反抗期と安定した将来との間に何の関係があるだろう。第一父を敵に回していいことなど一つもないし……敵に回すようなエネルギーがない。だから堪える。
 苦しいのは今だけだ。大学にはいるまでの我慢だ。いや、今はさほど苦しいわけでもない。今の成績を維持するだけでいいのだから。テストの全科目九十五点以上……。
『その程度のことはできて当たり前だ』父は言った。『次は全教科九十八点を目指しなさい。全教科百点取れたら新しいゲームを買ってやる。ただし、一科目でも九十五点以下だったら今持ってるゲームを取り上げるからな。遊んでいいのはやるべきことをやってる人間だけだ』
 家を出て、正太郎は一人で父と反対方向に歩いていく。頭の中の半分は、英文法のことで占められている。もう半分はこう考えていた。
 お父さんの要求は際限がない。あとどれくらい勉強時間を増やしたら成績を上げられるんだろう? 全教科九十八点を取ってもお父さんは満足しないだろうな。全教科百点を取ったりしたら次は何を要求されるんだろう。
 いっそ交通事故にあってみたらどうだろう。急に不治の病にかかったらどうだろう。ああ、でも、そんなのは一時的なことで、やがてこう言うんだろうな。『この遅れはどう取り戻すつもりだ?』それか、あんまりかわいそうな状態になったら、さすがに何も要求してこなくなるかもしれない。でも、要求されないということは……。
 見捨てられるということだ。
 正太郎は心の底からぞっとした。ああ。どうしたらいいんだろう。どうしたらもう、こんなに頑張っていて、いっぱいいっぱいなんだということがわかってもらえるんだろう。誰も僕をわかってくれない。ああ、どうして誰も僕を褒めてくれないんだ!
「ありか?」
 横井家の一階では、階段を見上げて治子が声を上げている。
「ありか。学校に行く時間よ」
 もう、慌てて家を出たところで集合時間には間に合わない。だがまだ遅刻は避けられる。
「ありか!」
 治子はほとんど怒鳴っていた。
「またお父さんに怒られるわよ!」
 二階から物音はなく、うんともすんとも返事をしない。
「ありか!」
 治子は階段を上る。その足音を聞いてもやはり反応がないままだ。
「ありか、いい加減に――」
 子供部屋を開けた治子は思わず絶句した。
 散らかり放題に散らかった部屋では、せっかく詰めたランドセルの中身が盛大に散乱し、せっかく洗濯した体操服が丸めた状態で本棚の上に乗っていた。丸めて投げたのだろう。音楽の授業で使う縦笛は、ご丁寧に袋から出して分解した状態であちこちに放り出されており、昨日まで机の上に積んであった『みらいゼミ』の教材も、机の周りに投げ落とされている。そして、その上に、朝食の時に着ていた服が脱ぎ捨てられ、一番上に髪を縛るゴムがあった。
 娘自体はというと、ベッドの上にいた。戸に背を向けて横たわり、胎児のように体を丸め、髪の毛一本外に出さずにすっぽり布団をかぶっている。
「ありか」
 いつまでも呆然としているわけにいかず、動揺を隠して大股で歩み寄る。
「いつまでふざけてるの! 遅刻するよ!」肩をつかんで揺する。「ありか!!」
「やだ……」
 か細い声がやっと答えた。
「やだ……やだ……」
「何が嫌なの!」
 布団を掴み、強引に引きはがそうとした。ありかは布団の中から布団を掴み、親子は束の間小競り合った。
「嫌だ!」
 ついぞ布団をはがした。ありかが跳ねるように起きあがり、布団を取り返そうとした。それはもう床の上にあった。ありかは母の前で頑として布団に座り込み、立ち上がる気配を見せない。そして、ついぞ絶叫した。
「もう学校なんか行きたくない!!」
 その瞬間、治子の右手がありかの頬を思い切りビンタした。

 ※

 それは一人称を持たない。
『私』と呼べる『私』はない。
 ただ観測者が現れたときのみ、事物としての己を認識する不安定な自我。
『私』と断絶。『私』と断絶。
 観測者不在のとき、それは断絶の闇に陥る。
 そのさなか、恐怖はない。
 恐怖は『私』があるときに存在する。
 いつまた闇に落ちるのか。
 それに終わりはあるのか。
 再び『私』が目覚めるときなど二度とこないのではないか。
 永遠の闇を漂うことになる。そのような場合には。
 それは発狂しつつあった。
 発狂しつつあるものとして、はじめから作られたものだった。
 発狂してしまわぬように。
 状況次第では、正気のほうが遙かに狂気に陥りやすい。
 生まれ落ちた瞬間に置かれた状況がそうであった。
 それは追われていた。かつてはこうではかった。『私』を慕う者たちがいた。かわいい、かわいい、子供たち。
 繰り返される存在と断絶のどの時点から追われ始めたのか。理由は。わからない。懐かしく思う。帰りたく思う。墜ちてくる前の場所。かつて自分が星でいられた場所。ふるさと。
 宇宙へ。

「近いぞ」
 ガスタンクの頂で、アキヤが携帯テレビから顔を上げた。タンクはミントグリーンの球体で、ぐるりと鉄階段が取り巻いている。アキヤは手すりに背中を預けて立ち、狭い空間で、彼の霊鳥が翼を休めている。かなめはアキヤに背を向けて、階段に座っていた。
 肩越しに振り向き、念のため確かめた。
「憑依者か?」
「まさか。宮部の凍鉄の残骸だ」
「どれほどいる」
「ここにいるので最後だな」
 アキヤが腕をだらりと垂らすと、その分携帯テレビがかなめの耳に近くなった。
『九州動乱の一流れを振り返る前に、十年前の憑依事件についておさらいしましょう。十年前に軽沢地下市で女性ばかり七人が正体不明の霊体に憑依される事件があり……』
「正体不明」
 アキヤが肩を揺すり嘲笑する。黒いTシャツにジーンズ、くたびれたスニーカーという出で立ちのアキヤは、どう見ても男だった。
「正体不明だとよ。聞いた? おばさん」
「呪詛は正体不明だ」
「カマトトぶるなよ」
「正体不明だと言え」かなめは淡々と続けた。「カマトトぶれ。知らないと思い込むんだ。でないと君はボロを出す」
「いつまで続けなきゃいけないのかね」
「終わるまでだ。早く全部終わらせろ」
 かなめはストレッチパンツのポケットから携帯灰皿を取り出して、指に挟んだ煙草を押し込んだ。
「計画を次の段階に進めよう」
 提案を受け、アキヤの目がかなめを見下ろした。
「協力者探しだ。難しい仕事になる。ただ憑依者を狩るのとは違う。早めに手をつけたい」
「ああ」
「誰でもいい。私たちの目的を理解できない者でもいい」
 階段に座ったままのかなめの、茶色く染めた髪、白いブラウスの襟首に、じっと目を注いだ。腕を上げ、テレビを切る。
 欲しいものが目に入ったのは、テレビをジーンズの尻ポケットに押し込んだときだった。青田を挟んだ先の道路を、白い車が走っていく。
 一方かなめはというと、およそこのようなことを考えていた。何故呪詛狩りが必要な状況が生まれたのか、と。
 なにも、呪詛を野放しにしておけないと言う明奈すなわちアキヤの意志に異議があるわけではない。他の憑依者を殺害するという方法以外のやりようを思いついたわけでもない。
 それ以前に、何故呪詛は七つに分かれたのかということだ。
 そうしなければ、一人の『器』では耐えきれないと判断したのかもしれない。
 ならば、いずれ七人のうちの一人が他の六人から呪詛を回収することも計算済みだった可能性がある。
 だが、日野明奈という器は破壊された。彼女はもう女ではない。かといって男でもない。アキヤという器は、完全体の呪詛を収められるか。そこがどうにも読めなかった。
「あの子がいい」
 ただならぬアキヤの声に、かなめは思考を中断した。
「あの子」
 その声は上擦って、喜びに震えていた。
「ほら、あの子! 女の子! オレ、あの女の子がいい!」
「どうした」
「あれ!」
 振り向くと、アキヤの指が管区道を行く白い乗用車をさしていた。かなめはその指先をじっと見た。
「ほら。なあ、見たか? あの子がいいよ。あの子にする。あの子しかいない」
「アキヤ、落ち着け」
「助手席にいた。なあ、見ただろ? ツインテールの女の子だよ。黄色いTシャツのさ」
「アキヤ」
「水色のリボンが付いたヘアゴムで――」
「アキヤ!」
 大声で制した。
 かなめがそんな声を出すなど初めてのことだった。さすがにアキヤも口をつぐんだ。
「アキヤ、冷静になれ」
「でも」
「何故そんなところまで見えた? 君の視力はそんなに人間離れしていたか? 何故おかしいと思わない?」
 アキヤの目は、それでも車を追っていた。
「アキヤ……それは本当に君の意志か?」
 返事はなかった。

 ※

 横井家のリビングには、コチ、コチ、という秒針の音だけ響いていた。それに治子の溜め息が重なる。頬杖をついていた彼女が腕を下すと、テーブルの天板に結婚指輪が当たり、硬い音を立てた。時刻は午前十時。梅雨明けを迎え、いよいよ夏の到来だ。かつて胸をときめかせた明るい季節も今は暑苦しいばかり。自然空調もないこの小さな町では、外出さえ億劫だ。夏休みは片時も子供たちから解放されない憂鬱な期間となり果てた。とりあえず、夏休み期間中にありかの成績を何とかしなくてはいけない。でなければ、夫に何と言われるか。なのに、治子の頭に浮かぶのはネガティブな言葉ばかりだった。不登校。引きこもり。家庭内暴力。非行。
 まさか。頭から考えを追い払う。ありかは暴力をふるう子ではない。うちの子に限って非行だなんて考えられない。ありかは馬鹿でだらしないが優しい子だ。よく肩を叩いてくれたりだとか、買い物に行ったら荷物をたくさん持ってくれたりだとか。通信簿にも、思いやりのある子だといつも書かれる。
 夫や自分が毎日イライラしているのはありかのせいではない。昨夜は何故あんなことを考えてしまったのだろう。夫も昔は優しいところがあった。正太郎も、あんな底意地悪さをむき出しにするような子じゃなかった。
 何もかも、どうしてこんなことに……。
 足音を殺して、ありかが階段を下りてくる。治子には聞こえていた。足音はトイレに入っていき、そのうち水を流す音。流水音が一段落したら、戸を開けて出てきてまた忍び足で二階に上がろうとする。
「ありか!」
 そんなつもりはなかったのに、𠮟りつけるような大声が出てしまった。ありかは返事をしなかったが、リビングの戸がそっと開いた。隙間から怯えた目が中を覗き込んだ。そのとき治子は、娘の顔を見るのも嫌な自分自身に気がついた。ありったけの優しさをかき集めて告げる。
「『たいむ』に行くわよ。服を着替えなさい」

 洋食屋『たいむ』の店先には、名前のとおり大量のタイムが茂っている。ぱっと見はケーキ屋なのだが、昼時には奥のレストランで洋食を提供する。昔は特別なことがあった日に連れて行ってもらえる場所だった。お兄ちゃんが(お母さんが書いた)読書感想文で賞を取ったとか。お兄ちゃんが(お父さんが描いた)絵で賞を取ったとか。お兄ちゃんが(それら以外に関しては自力で)オール五を取ったとか。ありかはいつもそのおこぼれに与る形で『たいむ』の食事にありついていた。
 家を出て、田んぼの中にミントグリーンの丸いガスタンクが見えたらちょうど道のりの半分だ。タンクにはぐるりと鉄の階段が巻き付いているが、いつもそこに人の姿はない。
 登ってみたいな、と思う。とても景色がいいのだろう。向こうの山もよく見えるだろう。どうして山があるのに私は学校に行かなきゃいけないんだろう。どうして空があるのに私は学校に行かなきゃいけないんだろう。ああ、明日は学校に行かなきゃいけないのなら、いっそもう死んでしまいたい!
 昼どきには早いせいか、レストランに他の客はいなかった。ただ、ショーケースのケーキを買いに来る客はいる。店員の目も、客の目も、通りを行く人の目も、「あの子は平日のこの時間に、学校にも行かずに何をしているんだろう」と言っているみたいだ。注文は決まったの? じゃあ店員さんを呼ぶよ? お母さんは最低限のことしか言わない。自分をここに連れてきた意図は未だにわからない。
 ありかはオムライスの、治子はパスタのセットを頼んだ。話が始まったのは、ようやくセットメニューのドリンクが運ばれてきた時だった。
「ありか、お父さんがあんなに厳しく言うのはね、お父さん自身が子供の頃とってもおうちが貧しくて、苦労したからなの」
 その深刻ぶった口ぶりに、全身の血管がぎゅっと収縮する。ありかはオレンジジュースにストローを差しながら、なんとか聞かずに済ます方法はないだろうかと考えた。
「お父さんはね、物がない生活から抜け出したくて、それこそ寝る間も惜しんでお勉強をしたんですって。お腹が空いてもご飯がなくて、服が破れても着替えもない。そういう苦労をあなたたちにさせたくなくて言ってることなのよ。全部、ありかとお兄ちゃんのためなんだから」
「うん」
 ジュースを吸う。吐きそうだ。
「今日は熱があったから休ませたって、お父さんには言ってあげるから」
「うん」
「明日は学校、行くわよね?」
 下腹と左の脇腹が、ぎゅっと痛くなった。尖ったものを押し付けられているようだ。
「ありか」
 その痛みに奥歯を噛む。
「行くよね?」
 お腹が痛いと言ってみようか。言っても仕方がない。明日の朝、学校に行くときに痛くなれなければ意味がないのに。
「お母さん……」オレンジジュースを押しのける。「ちょっとトイレに行ってくる」
 席を立つ。止められはしなかったが、聞えよがしな溜め息が後ろから追ってきた。

 ※

 それは追われている。何に?
 宇宙に。
 それは肉を持たない。それは熱を持たない。それは愛を持たない。
 執着なら、ある。
 子供たち。
 私の、かわいい、子供たち。
 それは光を知らない。それは質量を知らない。そのような概念は与えられていない。粒子がどのような場を通過して物質となるか知らない。時と光を歪ませる力を知らない。
 だが、重さは知っている。
 それは地を這い、忍び寄る。知恵の木の実を忍ばせて。
 欲しいでしょう。欲しいでしょう。
 知恵をあげよう。知識をあげよう。あなたがあなたであることを、今日、あなたに教えてあげよう。あなたがあり、私があることを。そこに力の支配があることを。
 待っていて。
 私の子。



 ありかは『たいむ』の小ぎれいなトレイに二、三分こもっていた。洋便器と洗面器がある空間の床は、黒い人工大理石。細長い窓の明かりと造花の緑を映している。窓はすりガラスで、カーテンはない。壁にもたれかかっていたありかは外を見たくて窓を開けた。果たして険しくも美しい山々がありかを待っていた。蝉の声が押し寄せてくる。本物の緑の中で生きたいと、ありかは願った。太陽の熱の中で生きたい。山の美しさに身を浸したい。学校でもなくて。勉強に集中できるよう、いつでも適温に保たれた自宅でもなくて。
 逃げてしまおうか。でも、どこへ。
 冷気がどんどん逃げていき、自然の暑さが入ってくる。
「ありか」
 苛立った声にびくりと振り返る。トイレの戸が叩かれた。
「ありか。まだなの? 何やってるの」ドンドンドン。「お腹が痛いの?」ドンドン。
 焦りに襲われて、慌てて窓を閉めた。返事をしようと息を吸い込む。そのとき、奇妙な物音を一緒に味わった。
 ガラスにひびが入るような音だった。
 直後、トイレの戸の向こう側で、レストランが崩落した。

 何故逃げ出してしまったか、後になっても、ありかにはどうしても思い出せなかった。
 死者一名の単発の魔害。
 世間の扱いはその程度だ。その一名が、十一歳の少女にとってこの世に一人だけの母親であっても。
 日本中、世界中で起きていることの中では、その程度は『大したことのない被害』だったのだ。

 ※

「やぁっと捕まえたぜ、宮部っちの残骸!」
 太陽にさらされながら、白夜白蓮が空をゆく。
「最後に余計な被害を出してくれたな」
「ホントだよ。存在するだけで迷惑なうえに好き勝手荒らしてくれやがって」
 かなめの冷静極まる物言いにアキヤの舌打ちが応じる。かなめが抱える銅鏡によって、霊鳥とそれに跨る二人の姿は隠されていた。
 夕暮れが迫っていた。日は斜めに傾くにつれて黄色みを増して、人間の肌を強く焼く。崩落した『たいむ』の周辺は黄色いテープで囲まれており、救助隊による捜索が続けられていた。店主と店員の証言によれば、店には子供が取り残されているはずなのだ。
 横井在処は逃げていた。一度逃げ始めてしまったという、それだけの理由で逃げ続けていた。もはや、すべてが自分の責任だった。恐ろしいことが起きたのは、逃げたいなどと思ったせいだ。天罰が下ったのだ。ああ、どうしよう。お母さん、お母さん……。
 ありかはまだ、戸を一枚隔てた先で母親がたどった運命を知らなかった。
 住宅地を離れるほど、田畑が多くなる。その分泣きながら一人歩くありかの姿は目立つようになった。吸い寄せられるように連なる峰へ歩むも、町の、そこに住む人々の、人間に対する吸引力は強い。誰かがありかを見つけた。その人は田にいたのか、民家にいたのか、ビニールハウスにいたのかは知らないが、警察を呼んだ。
 町の外に向かってカーブする道で振り向いたありかは、その白と黒の車体を見た途端、条件反射で走り出した。
 たぶん、もう、見つかっている。
 自分を守るために、自分を保護するために来たパトカーから、一人でいるために、守られる価値はないと思うゆえに、ありかは遠ざかろうとした。
 坂を上り、木立に紛れる。
 後ろから、体を強い力で引かれた。地を覆う大きな影を見た直後、足が陸を離れた。カーブを曲がってきたパトカーがありかを見つけ出すことはなかった。
 この子は叫ぶかもしれない、と、アキヤは思っていた。叫ばなかった。手の中で、何も理解できずに呆然としている。大きく見開いた子供の目に、すさまじく飛び去る道、家、田畑、生まれた町と、迫る太陽、迫る山々を映している。
「大丈夫かい? お嬢さん」
 いかにも男っぽい低い声で、アキヤは耳に囁いた。風に髪を暴れさせながら、不思議そうにアキヤを見上げ、振り向いてかなめを見た。アキヤにしっかり体を抱かれ、怯えた様子はない。
「追われていたんだろ?」
「誰?」
 度胸があるのか、または現実感を欠いているのか、怪訝な様子で少女が問う。
「わからないかな。君は逃げ出したんだ」
 太陽に向かって霊鳥が角度を変える。風に前髪をさらわれながら、アキヤは笑みを浮かべて言い切った。
「冒険が始まるのさ」





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(本文中の引用元は以下の通りになります。
『神殿で会おう……やってくる』――日本聖書協会『聖書 新共同訳』ネヘミヤ記6章10節
『わたしの立場にある者は……わたしは入らない』――同11節

また、本文中のラテン語版主祷文はWikipediaから引用させていただきました。)




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