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冷凍されたオシドリとチューリップ人の王国

趣味で書いている小説用のブログです。

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「あなたのために祈った」

今日はどういうわけだか、朝から一つの記憶に取り憑かれていた。

私が小学二年生で、兄が四年生のときだった。
学校で使う兄のノートを文房具屋まで買って来るようにと、母に言いつけられた。
二年生と四年生では使うノートの行数が違うので、間違えないように、と言われた。
ところが文房具屋に行ってみると、ちょうど指定の行数のノートが売り切れだった。
手ぶらで帰ったら、母は怒るだろう。ノートを買って帰らないと、兄が宿題をできず、困るかもしれないからだ。
すると文房具屋のおばちゃんが、指示とは違う行数のノートを一度買って帰り、どうしてもそれでは駄目だったら、返品しに来なさいと言ってくれたのでそうした。
すると私は指示されたノートを買って来なかったことになるわけで、母は怒りをあらわにし、玄関先で私の顔や頭を殴り、家には一歩も上げずに、今すぐ返品して来いと命じた。
そして、憎悪で凍りついた目を向けて、「お前は本当にあの人(私の実父)の子供だね」、と、吐き捨てた。
父はかつて牛乳を買って来るよう頼まれてコーヒー牛乳を買ってきたことがあるそうで、母は父のことを憎み、蔑んでいた。
私は泣いて文房具屋に引き返しながら、どうしてお兄ちゃんは、あの人の子だね、といつも言われないのだろうと思っていた。
私と兄では父親が違うのだということ、加えて私が宿らずにいたほうが、母と兄は本来の家庭で、本来の夫であり父親である男と共に幸せでいられたであろうとは、当時思いつきもしなかったのだ。

抹消したいような記憶であり、何故思い出したかわからず、しかもなかなか意識から消え去ってくれないので、仕事をしながらだんだん嫌な気分になっていく。
憎しみが心の中に呼び起されていく。
親すら嫌った私を神が愛するはずがないという考えを思い出す。

私はかつて、カトリックの幼稚園に通っていた。
母親に信心があったわけでなく、むしろそうしたことを馬鹿にしており、ただその幼稚園に子供を通わせるのが、他の母親に自慢できるというある種のブランドだったからだ。
だが私は幼い心に植え付けられた神を信じていた。
父親は、私にとってひどく恐ろしく聞こえる音楽のCDをかけるのが好きで、私が怖がるのを見ると、面白がって何度もかけた。
私はそんなとき、暗い子供部屋で主祷文(当時は文語体だった)を唱えていたものだ。

幼稚園を出て、宗教的な環境が遠ざかると、神を忘れ、神は私を愛してなどいないと信じるに足る日々が続いた。
この歳になってまた教会に通うようになり、もう神を見失いたくないと思った矢先に、何故こんな嫌な思いをするのだろう?

さて、昼休みのことだ。

同じ職場に、20年前にブラジルから引っ越してきたカトリック教徒の女性がいる。
彼女は私に、「昨日のミサで、私の教会ではカードが配られたから、あなたにあげよう」と言ってきた。

差し出されたのは、透明の袋に入った、折り紙で作った聖母子像。
そして聖書の一節を書いた一枚の紙だった。
そこにはこう記されていた。

わたしはあなたの信仰がなくならないように、あなたのために祈った。 (ルカによる福音書22章32節)』

それを見た瞬間に、心臓が大きく脈打って、午前中に苛まれていた嫌な気分が一切消えてしまった。
どきっとしたのだ。

何故、今このカードが私の手許に来たのだろう?
何故、昨日に限って彼女の教会ではカードが配られたのか?
何故、彼女が受け取ったカードに記された言葉がこれなのか?
何故、彼女はこれを私に渡そうと思ったのだろうか?

私はどうにか気持ちを落ち着けながら、こう言った。
「ありがとう。今ね、すごくドキッとして、何て言えばいいかわからなかったの。
実は私、昔は名古屋にあるカトリックの幼稚園に通ってて、それからかなりの間、神様に背を向けていた。
それが最近教会に通うようになって、もう神様を見失いたくないって思っていたのよ。
そういうタイミングでこのカードをもらったからびっくりしちゃった。とにかくありがとう。凄く嬉しい」

それを聞いて、カードをくれた女性も大変喜んでくれた。

神はこういう現れ方をするのだと、私は信じる。


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とよね

Author:とよね
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