何らかの事情で人が人のまま生きることが難しくなり、命をつなぐために動物になってしまう人間と、なお人間のまま残ろうとする人間に世界中が分かれてしまう。
人口の大部分を失って荒廃した都市では、空を飛ぶ鳥も元人間。室外機の上のカマキリも元人間。解き放たれて街路をさまよう犬も元人間。
ある晴れた日、誰もいなくなった街で、元人間の猫を服の中にかき抱いて主人公の若者が教会から出てくる。
街を捨てて去るのだ。
猫を連れて行くのは、動物化してもしばらくの間は人間の心が残っていることを彼が知っているからであり、その猫が心を失うまでの間寂しくないようにである。
廃墟と荒れた山林を越え、焚火の消し方がわからず右往左往したり、猫に水を飲ませる容器が見当たらず右往左往したり、追い剥ぎの集団に襲われてひどい目にあったりしながら、滅びた街から街へと通り過ぎていく。
そのうちに、ケガをしたらペロペロ舐めてくれたり寝るときはいつもくっついて寝ていた猫もだんだん彼に対する興味を失っていき、ついに記憶をなくしてなつかなくなり、人間を嫌って立ち去っていく。
一人きりになった主人公が涙をこらえて笑いながら、遠ざかっていく猫に向かって「また会おうね」と手を振っているところで終わりだった。
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